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機能性の高い組織デザインの考え方

POSTED: 7月 1, 2020, 6:00 am

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最近の流行りからみると珍しい本

個人的にファンである一橋大学の沼上幹教授の組織デザインに関するご著書。

組織変革のプロジェクトを仕事にしている為、組織と人材に関する本は良く読むのですが、私の本棚に並んでいる組織関係の本の中では、少々異質な本だと言えます。

これは私の本棚だけの話ではないのではないかと思いますが、組織開発を始めとして、組織に関する言説は、目に見えないものについて語ることがかなり多くなっていると感じます。

これには色々な背景が有るのだと思います。ITを始めとして、自社が扱うものがモノからサービスに変わってくる中で、工場の機械では無く人の頭がモノづくりに占める割合が高くなっています。そのため、目には見えない人の頭の中の話を積極的にする必要が出てきたということなのかもしれません。そもそも「組織」とは概念なので、組織の話をするのであれば、目に見えないものの話を中心的にするのは自然なことだと感じます。

そんな中、本書は分業と調整という2つの要素を最適化する組織デザインという考え方について詳説しています。

かなり現実的な話です。事業部制を取るのか?それとも機能別組織を取るのか?というような、どこの企業でも直面する実際的な論点についての解説が書かれています。

組織変革の支援をする際には、必ず必要となる観点

組織変革の外部支援者という立場は、中々難しいと感じます。現場から距離を取った上で、抽象的に思考したり考え方の枠組みを提供したりしつつ、同時に現場が変わることにコミットをしている為、現実的に何をどう変えるかを対話して進めて行かなければならない。

「組織のパーパスは何なのか?」「何のために存在しているのか?」「1人1人はどう感じているのか?」「何に困難を感じ、何に楽しみを感じるのか?」「組織はどのような文脈の網目の中で存在しているのか?」

そうした、目に見えないことを扱い、解きほぐし、明らかにしていくことが必要なのだけれど、同時にその目に見えない組織の背景を元に、「どのような役割分担にしていくのか?」「部署間の協議・連絡をどのように行うか?」「誰がどのような権限を持つのか?」「事故が起こった場合はどのように対処するのか?」といった、現実的な事柄を決めていかなければならない。

抽象具体の間を行ったり来たりすることを常に求められるのが組織変革のプロジェクトだと感じます。どちらかに偏り過ぎると、上手く行かなくなる。組織としての究極的な目的の話や、メンバーの想いを紐解かずに組織設計しても「仏を作って魂入れず」になるし、逆に、それらを扱っても具体的で機能的な組織体制や制度設計に落とし込まなければ、これまた「仏を作って魂入れず」になります。

沼上さんがここで述べている「組織デザイン」の考え方は、後者の具体的な組織体制や制度設計をする上で非常に役に立つと思います。組織には、どのような組織設計の基本形があり、それは何を狙いとしているのかという「」のようなものがあります。そうした基本の型を踏まえた上で、自分の目の前にある実際の組織をどうするかを考えることは、思考を一段深める上で役に立つと感じます。

組織デザインの型の例としての「ザ・ゴール」

例えば、日本でもベストセラーになったエリヤフ・ゴールドラットの「ザ・ゴール」という書籍があります。この本の中では、工場などの生産現場において、いかにボトルネックに着目することが大切かということが書かれています。

工場の生産能力は、ボトルネックが生産できる数量以上になることはありません。そのため、ボトルネックの1時間辺りの改善オポチュニティは工場全体の生産をボトルネックの稼働時間で割ったものと等しくなります。ボトルネックを改善して、1時間分の効率を高めることは、工場全体の生産量を1時間分増やすことになるので、非常に大きなインパクトです。

それにも関わらず、工場の生産性向上を考える際に、ボトルネックへの着目と、ボトルネック改善の為に必要な対策が取られていないことが「ザ・ゴール」では指摘されており、これは多くの人に非常に大きな示唆を提供した書籍です。

「ザ・ゴール」は主に工場を念頭に書かれたものではありますが、「複数の工程を経て付加価値のあるものを作り出す」という行為自体は、何も工場生産だけに当てはまるものではありません。沼上先生はこの点に言及し、ホワイトカラーの仕事においてもボトルネックに着目した改善活動が役に立つと述べています。

例えば、「新商品を開発する」という仕事が、アイデアを着想する→商品コンセプトに落とし込む→試作を作る→量産設計する→生産する→上市する、という「工程」に分かれていたとします。その際、その組織がどの程度の新商品を上市出来るかは、各工程ごとの生産高に依存します。

仮に、「組織内にアイデアは沢山あるのだが、それを実際の商品コンセプトにまとめ上げられる人が1人しかおらず、扱える数に限りがある」という状況があるのであれば、「商品コンセプトに落とし込む」という工程がボトルネックになっています。その場合、このボトルネックを集中的に支援し拡張することで、組織としての新商品上市数量は増加することが予想されます。

「ボトルネック」という言葉自体は、多くのビジネスマンが知っているものだと思います。しかし、では「ボトルネック」に着目して組織デザインをする際には通常どこに着目するのが定石か?と聞かれたとしたら、即答できるビジネスマンはそれほど多くはないでしょう。

組織デザイナーとして、組織の型を知る

「型を知っている」ということは、このようなことを聞かれた際に「一般的には、ボトルネックに対しては○○と××と△△という介入をするのが有効」という知識を自在に取り出せることを意味しています。現場の状況は千差万別なので、型どおりの介入が出来ない/効果無いことも多くありますが、有効な場合も存在し、また、たとえ型どおりには介入出来なかったとしても、型と比べることで、その現場は何がどう特殊なのかということを理解する手助けになります。

組織に対する現実的な介入の際には、このような型が無数に存在します。「なぜある組織は事業部制を取っているのに、別の組織は機能組織性を取っているのか?」「並列分業と直列分業はどちらを取るべきか?」といった現実的な選択肢に対し、一定の合理性が存在し、その元で定石が決まっています。

こうした基本形を学ぶ上で、「組織デザイン」は優れた知見を提供してくれます。もし、組織内外で、自分の仕事の中に組織の設計をする仕事があるとすれば、沼上先生の本は、示唆深いものになると思います。

(出所「組織デザイン」沼上幹)

渡辺寧

AUTHOR:渡辺寧(わたなべ やすし)

慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡りマーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。 2014年に独立し、現在は「人と組織が変わること」に焦点を絞ったコンサルティングに取り組んでいる。プライベートではアシュタンガヨガに取り組み、ヨガインストラクターでもある。

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