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職場における積極的「反論」のススメ 3つのコツ

POSTED: 8月 19, 2016, 3:35 pm

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「反論」は役に立つ

会社によって会議の雰囲気ってずいぶん違いますね。組織開発の仕事をしていると色々な会社の会議に参加するのですが、非常に活発な異論・反論が出る会社と、そういった異論・反論が一切出ない会社があることに気づきます。日本人は一般的に、欧米の諸文化に比べると、反論したり、されたりすることを好まない傾向にあります。が、実際はその程度は組織によりますね。

僕は、「反論が活発になされる職場」は組織の理想形の1つだと思っています。どんな場合でも活発に反論しなければならないわけではありませんが、反論は役に立ちます。なぜなら、衆知を集めて意見やアイデアを強化していくことが必要な組織では、自由な雰囲気で反論の応酬が明るくなされた方が、その目的は達成しやすくなるからです。個人の知識や見解には限界がありますね。多様な観点からチェックがなされた方が意見やアイデアはその妥当性を増していきます。

組織の中にとんでもない天才が居て、その人の意見やアイデアを実行していけば万事うまく行くというのなら、「反論文化」を広める必要はないでしょう。ただ、そういう状況は極めて稀であり、そもそもそういう天才的リーダーシップを期待することは現実的ではありません。

なので、多くの組織では、「いかにして反論が活発になされるか?」という問いを考えてみることは意義のあることだと思います。

「反論」ではなく「協調反論」

ただし、職場で反論する際に絶対にやってはいけないことがあります。
それは、反論して相手を「論破」するということです。

ディベートに慣れ親しんでいる人にとっては「反論」とは相手を「論破」することです。ディベートというコミュニケーション形態では、相手を論破することこそが重要なのです。なぜなら、ディベートでは説得する相手は、反論している相手ではなくて、それを聞いている「聴衆」だからです。聴衆が、2つの異なる意見と反論の応酬を聞いて「どちらの意見の方が説得力があるか?」を決めるのがディベートです。その為、「聴衆を」説得する為には、論敵を論破する必要があるのです。

一方で、職場でのコミュニケーションはディベート形式ではありません。反論することによって、影響を及ぼし合いたいと思う相手は、反論している相手です。よって、相手との関係は常に良好建設的である必要があります。
相手を論破してもろくなことにはなりません。感情を害して嫌われるのが関の山です。反論の目的は相手を論破して自分の正当性を示すことではなくて、それを積み重ねることによってより良い意見やアイデアを導き出していくことです。

よって、職場において反論する場合は、それは単なる「反論」ではなくて「協調反論」である必要があります。

「協調反論」とは何か

では、「協調反論」とはなんでしょうか?

協調反論とは、

・相手の意見やアイデアを「尊重」した上で、
・その議論構造を「吟味」し、
・より良い意見やアイデアを「一緒に」作って行くこと

です。

ディベートでもなければ口喧嘩でもありません。
信頼と尊重のポジティブな空気の中で行われる反論の積み重ねのことです。

日常的に、組織内で協調反論が自然と行われる場合、その組織はチーム内の衆知を集め、皆が自分ゴトとして仕事に取り組み、成果を上げる組織文化を手にすることになります。

上手く反論するにはコツがある

しかしながら、協調反論を行う組織文化を作って行くことは言うほど簡単ではありません。

組織文化のオーナーであるリーダーの強いコミットメントが必要なのはもちろんのこと、メンバー1人1人の意識変革と行動変革が伴わないと、それはなかなか実現しません。組織文化の醸成には長い年月がかかりますが、下記の3つのポイントは意識して損はないと思います。

3つのポイントとは、
①反対の主張をしない
②反論ではなく質問する
③3つの口癖を使う

です。

ポイント①反対の主張をしない

反論というと、相手と反対の意見を言うこと、と勘違いする人が居ます。例えば、会社の営業会議をしているとして、

「値下げして売り上げを上げよう」
「いや、値下げしても売り上げは上がらないよ」

というように、相手の主張(「値下げする」)に対して、いきなり反対意見(「値下げすべきでない」)をぶつけることがあります。

このように、相手の意見に反対の意見をぶつけることは、反論の一種ですが、職場ではこの型の反論は行わないことをお勧めします。なぜなら、この形式は往々にして議論が平行線をたどり、深まらないからです。

その代わり、相手の議論を一旦受け止め、それを深めていくタイプの反論を行うことをお勧めします。

深める為には、相手が何を主張しているのか、どうしてそういう主張をしているのかを聞いていくことが必要になります。そして、相手の主張の根拠や前提を理解した上で、その根拠や前提に対して反論をしていく。

ポイント②反論ではなく質問する

つまり、最初に出てくる言葉は「反論」ではなくて「質問」であるはずなのです。

「何が問題だと思ってるんですか?」
「その問題についてどういう意見を持っているんですか?」
「どうしてそう考えているんですか?」

と質問していくことによって、何の「問題」に対してどういう「主張」をどのような「根拠」に基づいて行っているのか、という相手の議論の構造がわかってきます。

相手の「主張」に対して逆のことを言うのではなく、相手がどのような「根拠」に基づいて主張をしているのか、その根拠は正しいのか、隠れた「前提」は無いのか。相手の議論がどのように形づくられているのか、質問をすることで確認をしていきます。そして、相手の主張にではなくて、根拠や前提に対して、必要な反論を挟み込んでいきます。

相手の議論を出発点としながら、協力してより「強い」議論を作って行く。それが協調反論のポイントです。

ポイント③3つの口癖を使う

こうした、協調反論を習慣として身に着けるためには、口癖を決めておくことが有効です。なぜなら、口癖として定型の「型」にすることで、自分達の思考の仕方をある程度ガイドすることが可能になるからです。

協調反論は「3つの口癖」で行います。

1.「なるほど~~~しかし~~~」
2.「それって本当?」
3.「仮にそうだったとして」

1.「なるほど~~~しかし~~~」は、協調反論をする上ではとても大切な口癖です。なぜなら、この口癖を使うことで一旦相手の意見を受け止めることになるからです。

人間誰しも頭ごなしに反論されるのは気持ち良いものではありません。まずは相手が述べたことを受け止めた上で(「なるほど~~~」)、自分が言うべきことを言う(「しかし~~~」)のがこの口癖のポイントです。

この形式をお互いに積み重ねることで、協調的に反論を続けていくことが可能になります。

2.「それって本当?」は、根拠の吟味をするための口癖です。

例えば、先ほどの「値下げをすべき」という主張を相手がしたとして、その根拠が「昨年も、値下げをしたら売り上げが上がったから」というものだったとします。

「それって本当?」と問うことによって、それが確かな事実なのかどうかを確認することが出来ます。もしかしたら、それは記憶違いかもしれませんし、地域限定などの一般化するには危うい事実なのかもしれません。

「それって本当?」を口癖にすることによって、根拠の確かさを常に確認する意識が身についていきます。

3.「仮にそうだったとして」は、隠れた前提を探すための口癖です。

大半の議論には、実は隠れた前提が存在します。例え、根拠が正しかったとしても、ある前提が正でないと主張が成立しない、という議論構造は沢山あります。

例えば、先ほどの例で言えば、「昨年、値下げの効果があった」という根拠から「今年も値下げをすべき」という主張を導き出すためには、「市場と競合環境が去年と今年で変わらない」という前提が正である必要があります。去年は当社だけが値下げをして、競合が出遅れた為に値下げ効果があっただけかもしれません。

「それって本当?」といって根拠の正しさを確認したのちに、「仮にそうだったとして」という口癖で、その根拠が正しかったとして、本当にその主張が導き出せるのかを確認します。

型を使うことで協調反論の文化を作る

日々のコミュニケーションのあり方は、組織文化を形作っていきます。日本では守破離ということが良く言われますが、会議など、組織の中のコミュニケーションで一定の型を使うことは、目標とする組織文化を作って行くことに役立ちます。

反論をしっかり学びたい人への読書ガイド

反論は、アリストテレスの時代から様々な考察がされており、様々な書籍が出ていますが、日本語で読めて組織コミュニケーションの参考になるものとして、下記の2冊を挙げておきます。どちらも、しっかりとした反論の技術について、例題と練習問題を交えながら学ぶことが出来るようになっている良書だと思います。

反論の技術―その意義と訓練方法 (オピニオン叢書) | 香西 秀信

クリティカル・シンキング練習帳 | M・ニール・ブラウン他

渡辺寧

AUTHOR:渡辺寧(わたなべ やすし)

慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡りマーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。 2014年に独立し、現在は「人と組織が変わること」に焦点を絞ったコンサルティングに取り組んでいる。プライベートではアシュタンガヨガに取り組み、ヨガインストラクターでもある。

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