包容力のある組織の作り方 MBTIの活用法
MBTIとは?
MBTIとはユング心理学のタイプ論を元にした、自己と他者を理解する為のメソッドです。MBTIとは何かに関しては、MBTI協会のホームページに詳しく書いてありますし、私の個人のホームページでもいくつか記事を書いているので、そちらも参照してください。
ダイバーシティ&インクルージョンの難しさ
私が組織開発の案件で仕事をする時は、かなりの頻度で最初にMBTIを実施するようにしています。というのも、人の多様性と関係性という問題を、組織の1人1人が理解するのに、これほど分かりやすくて納得感のあるメソッドは無いから。
最近はダイバーシティ&インクルージョンが組織開発の1つの大きなテーマですね。日本だと女性活用の話に矮小化されてしまっている感がありますが、世の中の方向性としてはとても大切。
そして、ダイバーシティ&インクルージョンのうち、特に難しいのは「インクルージョン」という考え方だと思います。ダイバーシティを推進するのも難しいのですが、こちらは社会経済環境的にやらざるを得ない部分がありますね。労働人口が減る状況で、優秀な人に働いてもらうためには、多様な背景を持つ人財を受け入れていく必要があります。会社の方針としてダイバーシティを推進していくとコミットする企業は今後増えていくでしょう。
一方で、「インクルージョン」を実現するには、これは組織の1人1人の意識が変わることが必要になります。多様な人の多様な意見やアイデアが生きるには、それを受け取る1人1人が受容的な態度を取る必要があるからです。
人にはもともと自分と近い人のことを信頼する傾向があります。自分と同じような価値観、信念、考え、といった内的な要素と、言語や社会階層のような外的な要素。それが近い人のことは信頼しますが、遠い人のことは容易に信頼しません。
自分が正しいと感じることや自然と思うことに対して、目の前の他者が異論を差し挟んで来たら、まあ、ムッとしますね。「何だこの人・・・おかしいんじゃないか?」と思ってしまうかもしれません。そうすると、包容的な関係性は即座に立ち消えてしまいます。
MBTIを使うことのメリット
このように、異なる人との間に信頼関係を作るのは簡単ではないのですが、MBTIは、人との関係性を円滑にする心の態度を作るのに大変役に立ちます。というのも、MBTIを使うことで、先ほどの「なんだこの人・・・おかしいんじゃないか?」と思う感覚が、自分と相手の「心の利き手」が逆であることから来ていることがわかることがあるからです。
人は生まれつき、右利き・左利きのどちらかの利き手をもって生まれてきます。同様に、心にも「利き手」があって、それが逆の人とは情報の取り方と判断の仕方が異なります。これがユングのタイプ論の考え方です。
人は自分が正しいと感じることや自然と思うことを絶対視しがちです。だって、心の底から「これが正しい、これが自然だ」と感じるわけですから。他者にとって、それは必ずしも正しいことではなく、必ずしも自然なことではない、ということを理解するのは大変難しい話です。「他人の気持ちになって・・・」と良く言われますが、本当に他人の気持ちになるのはそんなに簡単なことではありません。
MBTIを使うことで、自分にとって正しい・自然なことはタイプが逆の他者にとってはちっとも正しくなく、自然なことでもない、ということが身に染みてわかるようになります。自分がワクワクしてエネルギーが上がることが、他者にとっては気分を暗くし、エネルギーを下げることがあるのです。そのことに、MBTIのフレームワークを通じて気づくことになります。
多様性を受け入れる心理的態度を作る
このことは「インクルージョン」という概念を理解する上で非常に重要なきっかけとなります。MBTIと並んで私が多用するシステムコーチング(R)というアプローチがあるのですが、その中の言葉に
「誰もが正しい。しかし全体からすると一部だけ正しい」
というものがあります。
自分の感覚や考えは確かに正しい、ということを認める必要があります。自分を信頼する上でそれはとても大切なことです。と同時に、人間社会全体の中には異なる感覚や考えを持つ他者が居るということも認める必要があります。そうすることで、自分の感覚や考えを絶対視せず、「自分はこう思うけど、あなたは違う思いなんですね」と、違いを排除することなく受け止めることが出来るようになります。
MBTIは人の性格を扱うメソッドですが、性格の違いを理解し受容する心理的態度が出来れば、その心理的態度は性格の違いに留まりません。つまり、性格以外のあらゆる他者との違いを受容する態度となっていきます。しかも、自分の性格は自分にとって最も身近で大切なものなので、それをベースにした自己理解・他者理解は非常に強力な世の中を見通す視座となっていきます。
自己を知り、他者との違いを受容する態度を組織の1人1人が形成していく。それは強い組織を開発していく上で大変重要な土台となっていきます。