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異文化理解は語学と一緒。大人になったら意識的に鍛えないと使えるようにならない。

POSTED: 5月 18, 2016, 8:01 pm

文化

帰国子女が外国語をしゃべれる理由

大学の時、自分の周りには帰国子女がたくさんいました。お父さんが商社とかメーカーの海外駐在員で、子供の時に海外、特にアメリカで育った人が多かったんですね。

現地校に行っていた人と日本人学校に行っていた人とで差はありましたが、概して彼らは英語が上手かった。自分はいわゆる「純ジャパ」(=純粋なジャパニーズ。海外経験なく成人を迎えた人)だったので、彼らが流暢に英語をしゃべるのをうらやましく思っていました。

10歳が基準だそうですが、それ以前に外国語環境で育つと第二言語習得は割と自然に行われると言われていますね。それ以降に言語習得の勉強を始めた場合は、努力して語学を勉強する時間がどうしても必要になってきます。

特に大人になってからの言語習得は、現地に行けば話せるようになるというものではありません。読む・書く・話す・聴く、という技能それぞれについて時間をかけて知識を記憶し、トレーニングする必要があります。

異文化理解力は外国語習得に似ている

異文化理解って、この語学習得のメカニズムに似ていると思うんですね。子供の時に多文化の中で育った人は、異文化バックグラウンドの人とコミュニケーションする際にも、相手の文化に配慮した対応が上手いように思います。

イギリスに赴任していた時に、ヨーロッパの小国の出身メンバーが、文化的背景の違う人たちととてもうまくコミュニケーションを取っているのをよく見ました。EU圏内で、電車や車でちょっと行けば国と文化が変わるような環境で育つと、異文化対応力が鍛えられるのだろうなと思ったものでした。

一方の日本は、異文化理解に関しては大分ハンディがありますね。最近は身の回りに外国人も増えてきましたが、それでもやはり同質性の高い日本人同士でのコミュニケーションで生活は事足りてしまいます。今の大人で子供の時に文化的背景が異なる人たちに囲まれて育ったという人は少数派でしょう。

つまり大半の日本人は「異文化バイリンガル」になる環境で育っていないんですね。グローバルで活躍できる日本人マネージャーが少ないという話を良く聞きますが、仕方ない部分もあるかなと思います。

大人になってからの異文化対応力の磨き方

しかし、今のビジネス環境だと、ある日突然グローバルビジネスの担当となり、異文化理解が必要になることがあります。そういう状況になった場合、どうすれば良いのか。

これ、大人になってからの語学の学習と同じだと思うんですね。第二言語習得と一緒で、大人になってから異文化理解力を学ぶためには、意識的に「訓練」することが必要です。

例えば、英語を学ぶときに、「英語研修」という1日の講座に出れば英語が使えるようになるということはありません。ボキャブラリーやイディオムなどの知識を覚えて、繰り返し繰り返し自分で使って、間違えて、修正して、という長期間のトレーニングが必要です。

異文化理解も同様だと思います。「異文化理解研修」という1日の講座に出れば異文化がわかるようになることはないですね、残念ながら。1日の研修で異文化に関する示唆深い話は聞けるかもしれませんが、自分の使える知識・スキルとするためには、意図的・意識的に継続して訓練して行く必要があります。そうしないと、異文化対応力は中々上がらない。

そして、その訓練を行う際にはお手本となる「参考書」が必要だし「練習問題」が必要になります。何かしらのフレームワークに基づいて訓練をしないと、効果的な異文化対応能力の習得にはつながりません。

オランダのヘールト・ホフステード氏が作った6次元の異文化比較のモデルは、大規模な調査に基づき長年の検証を経て作られた唯一のフレームワークです。ホフステード氏はウォール・ストリート・ジャーナルから「経営に最も影響力を持つ20名の思想家」の1人にも選ばれており、比較文化研究の第一人者です。

このフレームワークは、文化間の違いを数値の差として表現します。国の文化をステレオタイプ的に理解することは避ける必要がありますが、文化の違いに関する一つの視点を提供してくれます。

コミュニケーションは投資すべき分野

ビジネスはどんどんグローバルになり、また組織の枠組みを超えたコラボレーションが普通に行われる時代環境になってきました。ソフトなサービスの重要性も上がっています。

こういう時代になってくると、人と人との関係性やコミュニケーションの持つ重要性が上がってきます。多くの日本人は、自分と異なる文化的背景を持つ他者とのコミュニケーションに苦手意識を持っています。同時に、この分野は訓練すれば上達する分野でもあります。それは大人になってから必要に迫られて語学を習得するのと似ています。

正しい方法で努力する。それによって異文化対応能力は上がっていくものだと思います。

渡辺寧

AUTHOR:渡辺寧(わたなべ やすし)

慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡りマーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。 2014年に独立し、現在は「人と組織が変わること」に焦点を絞ったコンサルティングに取り組んでいる。プライベートではアシュタンガヨガに取り組み、ヨガインストラクターでもある。

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