3つの質問力|コーチ・コンサル・弁護士の質問力
質問力はコミュニケーションの鍵
組織や人に関わる仕事をしていると、コミュニケーションに関わる悩みを良く聞きます。
- お客さんから重要な情報が聞き出せない
- 会議の生産性が低い
- 部下が自分の頭で考えない
- 言い負かされて悔しい
- 人と議論するのが苦手
- プライベートな相談をされるのが苦手
- 人を励ましたり、勇気付ける会話が出来ない
などなど。
業種や会社によって多少の差はありますが、同様のコミュニケーション課題を感じている人は多いのではないでしょうか。
これらの課題は、実は全部「質問力」を上げることで改善できる課題だったりします。というのも良い質問をすることは良いコミュニケーションを持つことの鍵であることが多いからです。
その為、本屋に行くと「質問力」をテーマとした本がたくさん売られています。参考になる本も多い。しかし、それらの本に書かれている質問法をそのまま使えば日常のコミュニケーションは上手く行くかというと、必ずしもそうとは限りません。
なぜなら、どのような質問が有効かは、質問する人が直面している状況によるからです。
例えば、多くの質問力の本には「オープンクエスチョン」と「クローズドクエスチョン」という質問の種類を説明しています。これは、求める回答の種類で質問を分類するアプローチです。
オープンクエスチョンとは、簡単に言うとYes/Noで答えられない質問(例:「この映画どうでしたか?」)で、クローズドクエスチョンとは、Yes/Noで答えられる質問(例:「この映画好きですか?」)です。
そして、コーチングコミュニケーションを基礎とした質問力の本には「オープンクエスチョンを上手く使いましょう」と書いてあることが多い。確かに、オープンクエスチョンが有効な場面は多いのですが、緻密に事実の成否を詰めていくような場面では、Yes/Noを明確にするクローズドクエスチョンを使う必要があります。
つまり(当たり前のことではありますが)、どのような質問をするのが有効かは状況によるわけです。特定の状況でどのような質問をするべきなのか、質問者はその都度判断して質問をする必要があります。
それにも関わらず、本屋に山積みになっている「質問力」をテーマとした本は、「こういう質問をすると上手く行きます」という書き方になっているものが多い。もうちょっと言うと、「こういう状況ではこういう質問法が有効です。でも別の状況では別の質問法が有効なので気を付けてね」という書き方にはなっていない。つまり、私たちの生活の全体像を捉えた上で質問力の解説をしていないのです。
これはおかしい。
「目的」に応じて異なる質問力を使う
では、自分の生活の全体像を捉えた上で質問力を磨くにはどうすれば良いのでしょうか?
これに役立つのが、「目的」に応じて質問を分類して使い分けられるようにするアプローチ。
ある「目的」を果たすためには「この質問アプローチ」、別の「目的」を果たすためには「こちらの質問アプローチ」という形で、複数の質問力の体系を頭の中に入れておくというやり方です。
日常の状況はコロコロと変わり、その場で達成しないとならない「目的」は変わります。何の為に質問をするのか。「目的」に応じて質問を分類して使い分けられるようにするアプローチとは、その場の目的を踏まえたうえで、適切な質問を使い分けることが出来るようにするものです。
「目的」のパターンは大きく3つと考える
とは言え、日常場面での質問の「目的」の種類が沢山あったら、それぞれに対応する質問力のパターンを覚えることは困難です。
しかし、「ビジネス」という観点を考える場合は、質問の目的は大きく3つと理解するのが良いと考えます。
ビジネスの登場要素は単純化すると3つしかありません。それは「自分」と「他者」と「物事」です。(「人」か「人以外」かで「自分・他者」と「物事」が分かれ、「自分」か「自分以外」かで「自分」と「他者」が分かれます)
こう単純化して考えると、主体である「自分」の関心の置き所は3か所しかありません。
①「他者」に関心
②「物事」に関心
③「他者・自分」の「物事」の見方に関心
の3つです。(「自分」に関心というものもありますが、それは対人コミュニケーションの範疇外であることと、他者への関心と質問内容としては重なる部分が多いので、ここでは省略します)
そして、この関心の置き所によって、質問の目的と種類は3つの異なるものとなります。すなわち、
①→他者の関心に関心を持ち、それを知るための質問
②→物事の構造を明らかにするための質問
③→物事の見方の正しさを吟味するための質問
ということです。
3つの異なる質問力を仕事とする専門職
この3つの異なる質問力を、それぞれ仕事の中で専門的に使っている職業があります。それが
①コーチ ②コンサル ③弁護士
です。
コーチはクライアントの関心に関心を持ちます。心から自分の関心事に関心を持ってくれるコーチの存在を身近に感じることで、クライアントは安心・安全な感覚を得て、勇気付けられ、自己の探求を進めて行きます。
コンサルは物事の構造に関心を持ちます。どのようなメカニズムで問題が起こっているのか。そのメカニズムの中で何をどう変化させれば問題が解決するのか。それを明らかにするために質問をしていきます。
弁護士は物事の見方の正しさ、すなわち主張と根拠に関心を持ちます。今、主張されていることは合理的に正しいのか、説得力があるのか。主張と根拠、そして隠された前提を明らかにするために質問をしていきます。
「3つの質問力」を使い分ける
日常の様々な場面に対応できる質問力を磨くために、少なくともこの3つのモードを意図的・意識的に使い分けることが有効です。
場面に応じて「あ、今はコーチモードで行こう」、「お、ここは弁護士モードを使おう」、「今はコンサルモードが良さそうだ」と使い分けることで、質問という行為が持つ力を最大限に発揮することが出来るようになります。
「創発」とか「協働」といったキーワードが重要性を増している今の時代、「良い質問者」の技術を磨くことが本当に重要になっていると感じます。
「3つの質問力」を体感する
人間誰しも、得意な質問力とあまり得意でない質問力があります。
これは、元々の性格や文化の中で身に着けてきた習慣によっています。どの質問力も、目的が合っていれば良い結果をもたらしますが、そこがずれていると良い結果をもたらしません。自分の得意な質問パターンを知り、その良さを確認すること。同時に、自分があまり得意でない質問パターンを知り、それを身に着けるよう自己鍛錬をしてみること。
そういう試みは、生活を豊かにし、より良い成果を出す上で役に立つと思います。
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