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「コーチの質問力」とは何か?(後編)

POSTED: 5月 6, 2017, 6:50 am

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「聞く」のではなく「聴く」

前回の記事では、コーチにとっては質問をする前の「在り方」の調整が大事だという話をしました。

具体的なコーチの質問の話に入る前に、もう一つ、コーチが質問をする前段階として大切なことを書いておこうと思います。

それは「聞く」のではなくて「聴く」ということ。

「聞く」と「聴く」の、ここでの定義はこういうことです。

  • 聞く」=受動的なききかた
  • 聴く」=積極的なききかた

人の話を「聞く」とは相手の話を受動的にきいている状態を意味します。この時、人は相手の話を聞いていますが、その内容「だけ」に集中しているわけではありません。相手の話を聞きながら、「あ、そうだこの後買い物行かなきゃ」などと別のことを考えているかもしれません。また、「この人の話、自分にも当てはまるなー」と自分のことを考えているかもしれません。

つまり、これは脳の自動運転モードです。相手の話に反応して脳が連想するままに任せる「きき方」。

それに対して、「聴く」とは相手の話を積極的にききに行く姿勢です。人の話を「聴いて」いる時、人は100%相手に集中しています。前回の記事で「コンパッション」というメタスキルをご紹介しました。コンパッションとは「相手のすべてに関心を払う」ということ。「聴く」とは、この「コンパッション」というメタスキルを100%発揮しながら、相手の話を「きく」ことです。

これは、脳を自分で運転するモードです。(余談ですが、私の場合、「聴く」モードに入ると、前頭葉の辺りの血流の流れが速くなる感覚を感じます)

このモードに入っている時、人は100%相手に注意を払います。「この後買い物に行かなきゃ」などと他のことが頭をよぎることはないし、「この人の話、自分にも当てはまるなー」などと自分に意識が向くこともありません。

コーチングとジョハリの窓

コーチは相手の話を「聴き」、質問をするわけですが、それではコーチの質問はそもそも何を目的としているのでしょうか?

前回の記事で、コーチの質問は多数ある流派によって少しずつ異なるが、共通した目的は、

  • 相手の可能性が、
  • 質問する側/される側の関係性の中で立ち現れ
  • 何らかの行動と学習に繋がる

ということだと述べました。

この目的に向けてコーチが何をしているのか、明確に理解するために、対人コミュニケーションの学習において使われる「ジョハリの窓」というコンセプトでコーチングコミュニケーションを考えたいと思います。

「ジョハリの窓」は心理学者のジョセフ・ルフトとハリー・インガムが発表した「対人関係における気づきのグラフモデル」のことです。横軸に自分、縦軸に他人を置き、それぞれが「分かっている」「分かっていない」で4つの象限を作ります。(下図参照)

ジョハリの窓

コーチングにおけるコミュニケーションは2人の対話なので、ここで横軸を「クライアント」、縦軸を「コーチ」と読み替えます。

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これまで述べてきたように、コーチが「在り方」を整え、「聴く」態度を取ることで、クライアントは安心して自分の悩みや不安、課題について話せるようになります。つまり、自己開示が進む。このことによって、クライアントは知っているがコーチは知らない「秘密の窓」の領域は狭くなっていく。(↓下図)

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その上で、コーチはクライアントにフィードバックをします。コーチングのフィードバックは多くの場合「反映」とか「認知」という形をとります。

反映」とは、クライアントが話している時の表情や話し方、雰囲気やエネルギーレベルをコーチが感じ取って、それを言葉でクライアントに伝えることです。「今、笑いが出ましたね」とか「楽しそうですね」といった単純な描写もあれば、「何か暖かな感じがしますね」とコーチの印象を言葉にすることもあります。

認知」とは、クライアントの人となりについてコーチが感じたことをそのまま伝えることです。「本気で何かを成し遂げようと頑張る人なんですね」とか「あたたかな関係を望んでいる人なんですね」とか。

このコーチのフィードバックは、時としてクライアントに「はっ」とした気づきをもたらします。なぜなら、人は日常生活の中であまり自分についてのフィードバックを受けていないから。

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多くの人にとって、世の中は「鏡の無い世界」のようなもので、自分の姿を自分で見ることが出来ません。コーチのフィードバックは「鏡」の役割を果たします。コーチからフィードバックを受けることによって、クライアントは盲点の窓を少しずつ開いていくことが出来るようになります。

コーチの質問の目的は何か?

コーチの質問は、正にこの「自己開示」と「フィードバック」を進める為になされます。コーチは質問することによって、クライアントに「まだ語られていない何か」について語ることを促します。その結果、場におけるクライアントの「自己開示」が進む。そして、その場を「反映」「認知」する「フィードバック」がなされる。

「自己開示」と「フィードバック」が進むと、秘密の窓と盲点の窓がそれぞれ開いていきます。それに伴い、コーチもクライアントも知らない「未知の窓」が徐々に開いていく。

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未知の可能性が、コーチとクライアントの対話の中で構成主義的に立ち上ってくる。そして、それが次の行動に繋がっていく。

コーチングの場とは、この「未知の窓」を開くことを目的としたコーチとクライアントの協働関係の場であり、コーチの質問は、その為の「自己開示」と「フィードバック」を進める役割を果たします。

コーチの質問の勘所

こうした、「未知の窓」を開くためのコーチの質問ですが、では、コーチは具体的にはどのような質問をするのでしょうか?

コーチの質問は、その場でコーチの直観に従ってなされるアート色の強いものです。ただ、コーチが質問をする時には、上で述べたように、質問がクライアントの自己開示になり、それが何らかの盲点の解明に繋がることが期待されます。

その為、コーチは、その場であまり「語られていないこと」に注目し、そこを敢えて紐解きに行きます。

人の心の大半は、自分が当たり前だと思っている考えや想いに占拠されています。(これを1次プロセスと言う)同時に心の中には、あまり当たり前だとは思っていない考えや想いが存在します。(これを2次プロセスと言う)
しかし、この2次プロセスは普段は意識されることはありません。なぜなら、通常人の心は1次プロセスで一杯で2次プロセスは端に追いやられている(=周縁化されている)からです。

周縁化

コーチの質問は、この普段は心の端に追いやられている2次プロセスを紐解いていきます。つまり、あまり「語られていないこと」を語るよう、質問をしてクライアントに促していく。

多くのコーチが、このことを直観的に行っています。フレームワーク的に考えて質問をするコーチは稀でしょう。しかし、プロのコーチではない人にとって直観的に有効な質問をするのは難易度が高い。そこで、ここでは、「これを意識して質問の勘所を考えると盲点の解明に繋がりやすくなる」質問マップ(下図)をご紹介します。

この質問マップには盲点の解明に繋がりやすい9つの質問の勘所が示されています。まずは型として、この9つの勘所を意識することで、コーチングの質問の質は高まります。

9つの質問の視点

この質問マップは、まず大きく2つに分かれています。その2つとは「クライアントの視点」と「クライアント以外の視点」です。実際に質問する際には、「クライアントの視点」から紐解いていくことが多いと思います。

クライアントには過去現在未来があります。そして、クライアントの心はその3つのどこかに不必要に占められていることがあります。例えば、過去の失敗を必要以上に気にしている、とか未来の不安で頭が一杯、など。

①~⑥は過去・現在・未来の3つの時制と「High/Low」の2つの掛け合わせ、そして過去の類似で整理されています。この過去・現在・未来の①~⑥の質問をすることで、その中のどこが「語られていないか」を探っていきます。

①~⑥のどの観点も有効な紐解きポイントになり得ますが、特に、②の「過去類似」は時として大きな盲点の発見に繋がります。「過去にも似たような問題あったな~」という忘れ去られていた記憶を呼び出すことが大きな盲点の発見に繋がる。なぜなら、この気づきは、その現象の背後にある「パターン」の気づきへと繋がりやすいからです。

「クライアントの視点」と共に「クライアント以外の視点」に関する質問を投げかけることも有効です。⑦他者⑧賢者⑨メタ(=俯瞰してみた時の視点)、の観点から見た時に何が見えるかを問う。

人の心は、様々な認知バイアスで出来た「主観」でしかものを見ることが出来ません。その主観を超える為に、「クライアント以外の視点」を持ち込むことが狙いです。これらの自分以外の視点はクライアントにとって普段は意識されない観点であることが多く、よって大きな気づきとなることが多い。

人は他者の存在を通して、自分の姿を知り世界を知っていく存在です。フッサールの言う「間主観性」ということなのかもしれませんが、コーチングにおける質問は、コーチとクライアントの協働の中において構成的に新しい自分と世界の見え方を作って行く営みです。

プロのコーチは、芸術的な質問を投げかけることでクライアントの気づきと行動を促します。
こうしたプロコーチの技を模倣することは困難ではありますが、コーチの質問の目的や勘所に意識的にあることで、プロコーチでなかったとしてもコーチング的な質問を投げかけることは一定程度可能になります。

ビジネスの場面で、相手の関心に関心を持ち、それを紐解こうとするとき、コーチの質問モードを使うことは大変役に立ちます。

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渡辺寧

AUTHOR:渡辺寧(わたなべ やすし)

慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡りマーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。 2014年に独立し、現在は「人と組織が変わること」に焦点を絞ったコンサルティングに取り組んでいる。プライベートではアシュタンガヨガに取り組み、ヨガインストラクターでもある。

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