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「コンサルの質問力」とは何か?(後編)

POSTED: 5月 21, 2017, 4:49 pm

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「何の問いに答えを出そうとしているの?」

前回の記事では、コンサルタント(戦略コンサルタント)が質問する際には、そもそも解くべき問題を見極めることが重要という話をしました。

解くべき問題を設定することを、論点設定と言います。この論点設定に関して、コンサルティングファームで働いていると、1日1回は必ず聞かれる質問がありました。

それは、「何の問いに答えを出そうとしているの?」という質問。

私は、新卒で事業会社に入社し、7年ほど働いた後、戦略系のコンサルティング会社に転職しました。事業会社からコンサルティング会社に転職して感じた最も大きな違いが、「論点」に対する尋常ではないこだわりです。

プロジェクトにはそもそも「答えを出すべき問題(=論点)」があります。そして、コンサルティングファームでは、その論点に答えを出す為に必要なことしか行わない。

例えば、ある商品の市場を分析する際、事業会社だと、マネージャーから「ちょっとこの市場について調べてくれる?」と言って仕事がふられますね。メンバーは「はい、わかりました」と言ってその市場の情報を集めて報告します。

コンサルティングファームではこういう仕事の仕方はしません。

その市場について、今答えを出すべき論点は何なのか?が明確になるまで、決して手を動かさない。いきなりPCを立ち上げて情報検索を始めることは無いし、スライド資料を作りはじめることもありません。

答えを出したい論点は、「市場の規模はどの程度か?」なのか、「市場の成長性はどの程度か?」なのか、「市場セグメントはどのような構造になっているのか?」なのか、等々。まずは何の問いに答えを出そうとしているのかを明確にする。さらに、それぞれの論点に対する仮の答え(=仮説)を明確にする。

そして、その仮説を検証する為に必要な作業プランを考える。さらに、その作業の中で自分が行うこと、外部にアウトソースできるものを切り分ける。どのように作業を進めると最も効率的に仕事が進むかを設計する。

その設計をし切った後、初めて手を動かし始めます。

この論点中心の仕事の進め方設計のことを「ワークプランニング」と呼んでいました。「ワークプラン」とは、WBS(Work Breakdown Structure)のような仕事の分解とは少し違って、論点/サブ論点/仮説/作業計画の一連のパッケージのことです。事業会社に比べると、段違いでワークプランをしっかり作る。それが自分が事業会社からコンサルティング会社に移った時に感じたことでした。

「何の問いに答えを出そうとしているの?」というツッコミ質問は、ワークプランの中でどこの話をしているのか、それを明確にするための質問でした。

事業会社のクライアントへのコンサルティングワークをしていると、ワークプランニングという仕事のやり方は一朝一夕では身に付かないというんだな、ということを感じます。

仕事の生産性を格段に上げる手段としてワークプランニングは極めて有効です。しかし、それを身に付けるのは簡単ではない。その難しさを超え、組織能力としてワークプランニングが出来るようにしていければ本当は良い。そのための1つの簡単な方法として、組織の中でお互いがお互いに「それ、何の問いに答えを出そうとしているの?」と質問し合うことが有効です。

「で、何が面白いの?」

もう一つ、コンサルティングファームで1日に1回は聞かれた質問が有ります。

それは、「で、何が面白いの?」というもの。

これはもしかしたら、戦略ファームの中でもボストン・コンサルティング・グループ(BCG)の人たちが特にこだわって言っていることかもしれません。

私が入社した時にBCGの日本共同代表をしていた御立尚資さんは、「戦略「脳」を鍛える」という本の中で、戦略にはユニークさが必要で、

ユニークな戦略定石インサイト

と言っています。

「で、何が面白いの?」という質問は、要は「何がインサイトなの?」ということを聞いている質問です。

この、インサイトというものがくせ者で、BCGに入った当初は、「何が面白くて、何が面白くない」と判断されているのかが良く分かりませんでした。仕事上のあらゆるアウトプットに関して、「で、何が面白いの?」と聞かれるので、最初は参ってしまったものでした。

御立さんは、

インサイトスピードレンズ

と定義していて、更に、

スピード=(パターン認識グラフ発想)×シャドウボクシング
レンズ拡散レンズフォーカスレンズヒネリレンズ

と定義しています。

詳しくはご著書を見て頂きたいのですが、要は、インサイトを出すためには高速で考えること視点を変えて物事を見ることが必要ということです。

どうすれば高速で考えられるのか?

視点を変える場合は、意図的に視座を変えることをするわけですが、「高速で考える」と言われてもこれは中々難しい。「頭が良くないと、とても高速で考えることなんてできない」と思うのが普通だと思います。

確かに頭の良さという要素もあるのですが、高速で考えられるかどうかはそれだけでは決まりません。これは、BCG入社後に悩んでいた時、別のパートナーに言われたことですが、「頭の悪さを嘆く前に、パターン認識のストックを増やす」ことが思考の速度を劇的に上げます。

元ボストンカレッジ経営大学院学長のビル・トルバーは、その著書「行動探求」の中で、1次・2次・3次ループのフィードバックという概念を紹介しています。

フィードバックの1~3次ループとは、

 

1次ループ挙動/行動
2次ループ戦略/構造/目標
3次ループ注意/意図/ビジョン

 

を振り返る事

パターン認識のストックを増やす、という話は2次ループのフィードバックパターンを増やす、という話と非常に近い。

ある行動とその結果の背後には、そういう状況を作り出すパターンがあります。経営学の理論は正にそうしたパターンを語るものだし、また学術的に理論化はされていなくても、「こうするとこうなることが多い」とその因果関係が認識されているものがあります。

そのパターン知識を、使える思考の道具にしておくと、現実とパターンを照らし合わせて、「何が構造的に起こっているのか」を素早くつかむことが可能になります。

入社当初は、経験の長いコンサルタント同士の話のスピードに全くついて行けませんでした。しかし、しばらくすると、実はそのスピードは、様々なパターン知識を「パターン言語」として話しているから、ということに気付きました。

こうした「パターン言語」は、システム思考における「システム原型」であったり、経営学における「戦略理論」や「組織理論」であったり、はたまた「ビジネスモデル」であったりします。そうしたパターン言語のボキャブラリーを増やせば増やすほど、会話のスピード・思考のスピードは上がり、また正確になっていきます。

もちろん、パターン認識の功罪はあります。パターン認識は、間違えて使うと、パターン以外の現実を見えなくするリスクも抱えています。これは、ダニエル・カーネマンが言う「ファスト思考」に近い。その為、自分のパターン認識が本当に正しいのか、それを精査する為のリフレクション(省察)が必要になってきます。

ビル・トルバーは2次ループフィードバックの更に外に3次ループのフィードバックという概念を置いています。パターン認識を使う人は、同時にそのパターン認識の使用がそもそも適切なのかを考える、つまり「人の認知に対する認知」を持つことが必要です。

そうした認識を持ちつつ、自分のパターン知識を増やし、それを道具として現象を観察することで、思考の速度は確実に速くなります。

「で、何が面白いの?」という質問に答えるためには、「現象の背後で何が起こっているのだろう?」「過去のパターンから考えるとどんなことが言えるだろうか?」という質問を問うことが有効。コンサルタントの質問力というものは、他者への質問だけではなく、自分自身に正しい問いを出す力でもあるわけです。

「それ」と「それ以外」

最後にもう一つ、コンサルタントの質問で、思考を進めるにあたってとても有効かつ簡単なものがあるのでご紹介しておきます。

それは、「それ以外は?」という質問をすること。

以前の記事で、「群盲象を評す」というインドの古い逸話をご紹介しました。

「群盲象を評す」
6人の盲人が、ゾウに触れることで、それが何だと思うか問われた。
足を触った盲人は「柱のようです」と答えた
尾を触った盲人は「綱のようです」と答えた
鼻を触った盲人は「木の枝のようです」と答えた
耳を触った盲人は「扇のようです」と答えた
腹を触った盲人は「壁のようです」と答えた
牙を触った盲人は「パイプのようです」と答えた
それを聞いた王は答えた。「あなた方は皆、正しい。あなた方の話が食い違っているのは、あなた方がゾウの異なる部分を触っているからです。ゾウは、あなた方の言う特徴を、全て備えているのです」
(出展 Wikipedia)

どんなに優秀なコンサルタントであっても、物事の全体をすべて把握することは困難です。そういう意味で、人は盲人の位置から離れることが出来ない。

ある事について考える=意識を集中させる、というのは、たとえて言うならば舞台のステージの一部にスポットライトを当てるようなものです。その部分は明るくはっきり見えますが、同時に必ずを発生させます。

この影の部分は盲点になります。何かについて考えると、必ず盲点が発生する。これは人間の認知の限界で、避けることがとても難しい。

だから、あることについて考えたら、必ず他の観点を考える必要があるわけです。その思考を促すのが「それ以外は?」という質問の役割。

「それ」と「それ以外」という概念は、元マッキンゼーパートナーの中川邦夫さんが、その著書「問題解決の全体観」の中で紹介しているものです。ロジカルシンキングを習うと「MECE(Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive)」という概念を習います。MECEを考える時、「それ」と「それ以外」」という分け方は大変便利です。なぜなら、「それ」と「それ以外」を常に考えていれば、必ず「漏れなくダブりなくなる=MECEになる」からです。

BCGだと「逆サイドを聞く」という言い方をしているパートナーが居ました。あることについて聞いたら、必ずその逆の状況についても聞く。ポジティブなことを言ったらネガティブなことを聞く、等。

それ以外は?」という質問や「逆サイドはどうなっているのか?」という質問は、コンサルタントが大切にする問題構造の全体像を明らかにする上で役立つと思います。

参考|コンサルタントの質問力を考える上で参考になる本7冊

最後に、コンサルタントの質問力を考える上で参考になる本をご紹介しておこうと思います。
いわゆるロジカルシンキングという領域の本は無数にあります。その中で、今回の「コンサルタントの「質問力」(前編)(後編)」の記事の中でご紹介した本を中心に、「質問力を鍛える」という観点で役に立つ本を7冊ご紹介します。

①「論点思考」内田和成(著)
BCG元日本代表で、現在は早稲田大学で教鞭をとる内田和成さんのご著書。論点とは何か、どう論点を立てるか/考えるか、についてきちんと学ぶのに役立ちます。

②「イシューから始めよ」安宅和人(著)
こちらは、元マッキンゼーの安宅和人さんの著書。論点=イシューで、こちらも実践的な考え方のアプローチが詳しく学べる良書

③「ライト付いてますかー問題発見の人間学」ドナルド・C・ゴース、G.M.ワインバーグ(著)
これは、いわゆるロジカルシンキング本というより、そもそも問題とは何か?ということについて考えさせられる本だと思います。

④「戦略「脳」を鍛える」御立 尚資(著)
今回の記事で引用した元BCG日本代表の御立尚資さんのご著書。ユニークさ/示唆はどう出せばいいのか、そのメカニズムが書いてあります。厳密さよりも面白さを感じる本だと思います。事業会社のクライアントで「あの本は面白かったです」と言われることが多かった本。

⑤「問題解決の全体観 上巻 ハード思考編 (知的戦闘力を高める全体観志向) 」中川邦夫(著)
これも今回の記事で引用した元マッキンゼーの中川邦夫さんのご著書。質問力というよりは思考法に関するものですが、わかりやすく実践的だと思います。上巻は主に「型」に関する話

⑥問題解決の全体観 下巻 ソフト思考編 (知的戦闘力を高める全体観志向)中川邦夫(著)
下巻は、仕事の進め方などに関して

⑦「質問する力」大前研一
大前研一さんによるそのものズバリ「質問」に関する本。私だったらこういう質問をします、という分かりやすい展開の本。「なるほど」と感じやすい本だと思います。

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渡辺寧

AUTHOR:渡辺寧(わたなべ やすし)

慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡りマーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。 2014年に独立し、現在は「人と組織が変わること」に焦点を絞ったコンサルティングに取り組んでいる。プライベートではアシュタンガヨガに取り組み、ヨガインストラクターでもある。

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