ブログ

「コーチの質問力」とは何か?(前編)

POSTED: 4月 26, 2017, 1:43 pm

edward-lear-1823589_1280

コーチの質問力を紐解く

前回の記事で、「目的に応じて質問力を切り替えることが必要」ということを書きました。

そして、ビジネスにおいては目的は大きく3つの分けて考えて考えると良いと書きました。それは、

  • 相手の関心に関心を持ってそれを明らかにする
  • 問題の構造を明らかにする
  • 物事の見方、すなわち主張と根拠を明らかにする

の3つであり、それぞれの目的に対応した質問を体系的かつ職業的に行っている専門職が

  • コーチ
  • コンサル
  • 弁護士

だということを書きました。

今回は、その①コーチの質問力を紐解いて行きたいと思います。職業としてライフコーチやエグゼクティブコーチになりたいという人は多くは無いかもしれません。しかし、コーチの質問力を学ぶことは、部下や同僚を励ましたり、その人が本来持っている力を引き出したりすることに非常に役に立ちます。

コーチング的な関りは自分は苦手だな、という方もいるかもしれませんが、自分なりのコーチの質問モードというものを作り、それが効果的に作用するように磨きをかけていくことはビジネスの場面で必ず役にプラスになると思います。

コーチングの流派は沢山ある

質問をする時、コーチはどのような質問を投げかけるのでしょうか?

実は、それはコーチによって若干異なります。

こういう言い方をしてしまうと身も蓋もないのですが、現在、コーチングには多様な「流派」があり、流派によって投げかけてくる質問に若干違いがあります。(参考 「7種類のコーチング流派」)

そこで、ここではいくつかの流派に共通して見られ、コーチ専門職でない人が見て「使いやすい」と感じられる質問の体系をまとめたいと思います。

コーチングはアメリカで約40年かけて発達してきました。特に、エサレン研究所の果たした役割が大きく、現在異なる流派を先導している人たちの多くが何らかの形でエサレンに関わっています。(参照 「コーチング40年の歴史」)その為、流派は違えどコーチングに共通して見られる要素があり、

  • 人間の可能性に対して楽観的な見方を取る
  • 構成主義的な人間観を持つ
  • 行動と学習を重視する

という所は流派共通の項目に見えます。よって、人が「コーチの質問力」を使う際には、質問することによって、

  • 相手の可能性が、
  • 質問する側/される側の関係性の中で立ち現れ、
  • 何らかの行動と学習に繋がる

ことを目指すことになります。

質問以前に大切な事

コーチの質問力を語るにあたって、実は根本的に大切なことがあります。

それはコーチの質問力は、ある「土台」の上に成り立つものだということです。どんな良い質問をしたとしても、もしその「土台」が無いのであれば、その質問は有効に作用しません。

本屋に行けば、コーチングスキルの本は色々と売っています。そこには、「こういう質問をすると良い」という質問リストがついていたりします。場合によっては、コーチング研修で質問の「スクリプト」を渡され、「それをそのまま読んでください」というようなインストラクションを受けることもあります。(私も実際そういう経験があります)

そのようなリストを使ってコミュニケーションを取る事には一定の効果はありますが、土台を欠いた状態だと本質的な効果が発揮されません。その場合、せっかくのコーチングコミュニケーションの効果が無くなってしまう。

では、コーチの質問が有効に作用するかどうかに影響する、その根本的な「土台」とはなんでしょう?

それはコーチの「在り方」です。

ステートBeing(ビーイング)等、言い方は色々ありますが、どれも「コーチがどのような状態でセッションの場に居るか」ということを意味しています。これらのコーチの「在り方」に関する表現の中で、私は特に「メタスキル」という言い方が気に入っています。

メタスキルは、プロセス指向心理学のアーノルド・ミンデルのパートナーである、エイミー・ミンデルがその内容をまとめた概念です。(「メタスキル―心理療法の鍵を握るセラピストの姿勢」という本に詳しく説明されていますので、ご興味のある方は読んでみてください)

エイミーは、2人のゲシュタルト・セラピストのセッションのビデオを観て、同じゲシュタルトアプローチを取っているにも関わらず、クライエントに対して全く異なるかかわりを2人が行っていることに注目しました。そして、「もし両者のワークのやり方がこんなにも違っていたとすれば、2人はゲシュタルト・セラピーをしていたといえるのだろうか?」と感じたと述べています。

そこから、発話などの表面的なスキルではなく、セラピストがもつ根本的な特性に注目し、それを「メタスキル」と名付けました。

メタスキルは習得可能なもの

上記で、コーチの「在り方」の重要性を述べました。しかし、コーチングコミュニケーションを職場のコミュニケーション等に生かそうとする人に、「コーチの在り方を身につけましょう」というのはかなり酷です。

ナチュラルボーンコーチ(生まれながらのコーチ)と言われる人が居るように、プロとして活躍しているコーチの多くは、元々の性格がコーチの特質に合っているように思います。

「コーチの特質を学ぶなんてとんでもない」、「自分にはとても無理だ」と思われる方も多いでしょう。

「メタスキル」という概念を私が良いなと思うのは、それが「習得可能なもの」と定義されている点です。これは、エイミーが明確に言っていますが、メタスキルは「他のスピリチュアルな芸術の型とほぼ同じように、養成したり習得したりすることが可能」なものです。

もちろん、それは一朝一夕で身につくものではありません。エイミーは太極拳のような東洋の精神的伝統訓練を引き合いに出します。こうした訓練は長い年月がかかるかもしれません。ただ、大事なことは、その習得は誰に対しても開かれている、ということです。

メタスキル習得に向けた第一歩

では、メタスキルはどうすれば習得できるのでしょうか?

残念ながら、その習得方法についてエイミーは簡単な処方箋は出してくれません。(当たり前と言えば当たり前ですが)

ですが、コーチングの様々な訓練を見ていると、いくつか「あ、これはメタスキル習得の初めの一歩として分かりやすいな」と思う演習(ワーク)があります。ここではそのうちの1つをご紹介します。

それは「目線を合わせる」というやり方です。

「目線を合わせる」とは、文字通り「相手の横に座って同じものを見るように目線を合わせる」ということです。

bench

実際にテーマを決めて、お近くのどなたかとやって頂きたいのですが、「目線を合わせた」状態で話をすると、相手の見方や感情を共有しているような感覚に入りやすくなります。

エイミーはメタスキルの中で「コンパッション」をその1つとして挙げています。「コンパッション」とは分かりやすい言葉で言うならば「相手のすべてに対して関心を払う」こと。(正確に言うと、「相手の1次プロセス同様に2次プロセスにも関心を払うこと」)

「目線を合わせる」ことによって、相手が見ている世界・見方をそのまま受け入れ、関心を払う道が開かれます。同時に、相手がまだ気づいていないことにも関心を払う道が開かれます。なぜなら、自分は相手の「隣に座っている存在」であり、相手とは違う目線で相手が見ているものを見ることが出来るからです。

この「相手の見方をそのまま受け入れ関心を払う」ということと「相手の見方ではない見方も持ち込むことが出来る」という所がポイントです。

質問する「在り方」をまず整える

「コンパッション」はそのまま訳すと「思いやり」です。人によっては「人に対して思いやりを持つということ自体が苦手」という人も居るでしょう。しかし、ここでの「コンパッション」とは、相手のすべてに関心を払うということであり、それは目線を合わせるといった能動的な働きかけによって、その状態に入り得るものです。

コーチング的コミュニケーションを行おうとする人にとって、この「目線を合わせる」という意識は、質問をする前段階として役に立つことと思います。

こうした根本的な相手に対する態度形成の土台が出来た上で、「コーチの質問」は効果を発揮します。

ではどのような質問をコーチはしているのか。(後編)では、より具体的なコーチの質問力を紐解いていきたいと思います。

関連記事

●「質問をうまく使う
●「3つの質問力|コーチ・コンサル・弁護士の質問力
●「「コーチの質問力」とは何か? (後編)
●「「コンサルの質問力」とは何か?(前編)
●「「コンサルの質問力」とは何か?(後編)
●「「弁護士の質問力」とは何か?

*「質問力」に関しては、定期的にワークショップを開催したり、記事を書いたりしています。ご興味のある方は下記でご連絡先をご登録いただければ、最新記事情報をお知らせいたします。

→登録はこちら

渡辺寧

AUTHOR:渡辺寧(わたなべ やすし)

慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡りマーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。 2014年に独立し、現在は「人と組織が変わること」に焦点を絞ったコンサルティングに取り組んでいる。プライベートではアシュタンガヨガに取り組み、ヨガインストラクターでもある。

BACK TO TOP